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メガチップスが、frizzの開発をスタートした背景には、産業技術総合研究所(以後 産総研)様とのコラボレーションを行ってきたという事が非常に大きな要因となっています。そこで、本日は産総研より蔵田先生と興梠先生にお越し頂き、MegaChipsでfrizzの開発とマーケティングを担当しているメンバーとPDRの標準化を含めた今と将来について話をして頂きました。
 
目 次
 ▼ 別プロジェクトで行き詰ったところから、コラボは始まった────
 ▼ PDRの進化形「PDR+」は移動行動の全てをトラッキング出来る「HDR」に向う───
 ▼ 「PDR+」×「ソーシャル情報」=「新しいアプリケーション」の可能性───
 ▼ 9月の世界会議よりPDRの標準化の議論が開始。フェアな性能評価が可能になる───
 ▼ PDRがスマートフォンにも標準的に搭載される時代はもう間近───
 ▼ MegaChipsに対して要求される事───

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 別プロジェクトで行き詰ったところから、コラボは始まった────
蔵田先生、興梠先生本日はお忙しい中お集まり頂き、どうも有難うございます。 frizzという製品の開発に関しては、産総研様とのコラボレーション抜きには語れません。 frizzもようやく中国市場においてある程度の認知度を得てお客様の注文を頂き始めたのですが、最初のきっかけについて覚えておられますか?
加藤

蔵田
そうですね、もうかれこれ5年ほどになるでしょうか。
確か何か展示会の会場に来られたのが最初だったような。
2010年頃にデジタルカメラをターゲットとしてソフトウェアGPSの開発を行っていました。 しかしお客様と話をする中で屋内では位置情報取れないでは意味が無いと言われ、その解決方法について行き詰っていたのです。 そこで屋内測位について知見を持っておられるところにかたっぱしから連絡を取って「この分野の研究で一番進んでいるところは何処だと思いますか?」と聞いていました。 すると8、9割の方が産総研さんの名前を上げるので、これはもう産総研さんにコンタクトするしかないと思っていたんです。 その時、ちょうど日経エレクトロニクスに蔵田先生が寄稿されたおり、なんと連絡先まで書かれて有ったので直ぐにコンタクトを取らせて頂き展示会場に押しかけてしまいました。
加藤

興梠
当時はPCとセンサーのモジュールを使ってデモをしていましたね。
はい、それを見せて頂き「おお、(軌跡が)取れている、取れている!」とびっくりしたのを覚えています。 そこからです。 産総研様が研究されていたPDRのアルゴリズムを如何に低消費電力で動かすかと言う事を考え始めたのはそこがスタートです。 結局ソフトウェアGPSの企画は没になり、frizzだけが生き残った訳です。
松本

蔵田
ちょうどタイミングも良かったのです。
その頃我々も、ソフトウェアをやっているだけではなかなか難しいぞ、と考え始めていたのです。
そういう所にタイミング良くお声がけ頂きまして。
こうやって何年か一緒に行ってきた事が実を結んだという事で我々も本当に嬉しく感じております。
我々は大学等の研究機関とコンサルタント契約を結んで協業するという事は結構頻繁に行っておりましたが、ここまでお付き合いが長くなったと言うのは初めてですね。
松本

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 PDRの進化形「PDR+」は移動行動の全てをトラッキング出来る「HDR」に向う───
  ※ HDR : Human Dead Reckoning
9軸センサを応用したPDRについては、性能もかなり向上してきたと思うのですが今後はどのような事に取り組んでいかれるのでしょうか?
加藤

蔵田
ネタは尽きないですね。動物版の行動計測だとか。 その他であれば最近は気圧をかなり真剣に取り扱っています。
気圧センサーは精度が格段と上がって革新的なアプリも考えられるようになってきています。フロアー間の移動もそうですが、階段の踊場なども検知できるようになって来ています。
興梠

蔵田
そうですね、上下が取れるとナビゲーションも相当強力になってきますね。
消防や警察の緊急対応という用途も出てきており高さは重要な要素となっています。 市場も急速に拡大して行くことが考えられ、我々も気圧センサーを使ったアプリケーションンの動向については大変気にしております。
加藤

蔵田
まださほど進んではいないのですが、「PDRプラス」というものもやっております。 行動認識との合わせ技で、歩行以外の行動計測も行うと言うものです。HDR、Human Dead Reckoningとでも言うのでしょうか。 何れにせよそういう方向に進めていかなければならないと考えています。
歩く事に比べて、乗り物に乗って移動する距離の方がずっと長いですからね。それに対応する事が絶対に必要となってくると思っています。
興梠

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 「PDR+」×「ソーシャル情報」=「新しいアプリケーション」の可能性───
ちょっと本日のテーマから離れてしまいますが(笑) ツイッター等、ソーシャルの情報をカーナビと繋げると非常に面白い。もうやめられない位に面白い。必ず繋がって行くと思います。
蔵田

加藤
それはどういう、意味なのでしょうか?
カーナビは当然車の中だけで使う物ですが、人間の動線としては車に乗る前から降りた後もずっとつながっていきます。 その意味では全ての状況においてスマートフォンでDead Reckoningまで行う必要は無いかも知れない。 このスマートフォンがネットワークできっちりと繋がっていれば、例えば電車であれば運行情報、車であればカーナビとリンクする形になって行くのだろうと。 IoTだとかM2Mという考え方を進めていけば、残りは何が重要であるかといえば、それは人間が素で動いているところ、それが取れれば良いのではないかと。
蔵田

松本
なるほど、ソーシャルな情報との融合とはそういう意味なのですね。
また「物」は自分では動けません、それを人間であったり、フォークリフトであったりに動かされる。 そのような「物」については、その人間やフォークリフト等の動かすものと紐付けさえ出来れば良いのだろうと思います。 動けるものを計測しておけば、動けないものも計れるようになって行く。そのネットワーク化さえ出来れば切り分けが出来るようになるのだと思います。
蔵田

加藤
確かに電車は運行情報見ればわかりますよね。
まあ、まともに使えるのは日本だけかもしれませんが(笑) ただ正確でなかった情報については、ソーシャルなサービスを含めて活用するようになれば。 色々なサービスが生まれて来るのではないでしょうか。
蔵田
Talking

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 9月の世界会議よりPDRの標準化の議論が開始。フェアな性能評価が可能になる───
我々メガチップスもお手伝いさせて頂いている、PDRの標準化に対しては今後どのような取り組みをされていかれるのでしょうか。
加藤

蔵田
先ずはこの9月にUbiComp, ISWCというパーペイシブ・ユビキタス・ウェアラブルコンピューティングに関する国際会議というものが大阪で開催されます。 そこで初めて国際的な舞台で標準化についての議論が行われます。そこでは「データセット」と呼んでいるのですがどのようなデータを集めて、 それに対する物差し「評価指標」を決めて、スペックやパフォーマンスを計測しようという議論が行われます。 それに対し日本国内では御社にも参加頂いている「PDRベンチマーク標準化委員会」というものが昨年から草の根で立ち上がっていますので、そこでサポートしていくといった形となっています。
今、標準化「データセット」と「評価指標」の二つがセットとなっていますが。我々は評価指標の方に注力していこうかと考えています。 我々としては先ず評価指標を固めてからデータセットを検討しておられる所と刷り合わせを行いたいと考えています。 もちろん総合指標というものは、ひとつであるべきなのですが、評価指標には色々な切り口が有っても良いと思っています。 例えば御社の取り組まれている低消費電力の指標を準備したり、あるいは精度についても演算コストをかけてもクラウドでの処理と組み合わせて絶対精度を重視する方法もあれば、 精度はそこそこで良い場合も有る。いろいろな指標を集めてきて、どんなニーズがPDRに有るのかという事を企業の方、大学の方と一緒になって考えようと思っていますし、そのような流れで進めています。
興梠

加藤
私たちが今お客様とPDRについて話をしていると、お客様によって評価のし方がとその指標がバラバラだと言うことは強く感じます。
評価についてはズルを防ぐという事も重要だと思っています。 計算を省いてしまうショートカットや、条件を決めてしまったりすることです。 それで良い結果が出るではないか、と言う事になると本来の性能が正しく評価できていない事になります。 例えば歩いて突然立ち止まって、また歩き出すだとか、色々な持ち方をして歩くだとか。 しっかりとデータセットにそういうものを含ませていく事が必要で、そういう事がフェアな指標を生むという結果にもなると思っています。
興梠

加藤
評価に専門のテスターがいる、という話を聞いた事が有ります。特定のテスターにしか評価機を触らせない。 これに対し我々は馬鹿正直にお客さんにデモユニットを貸し出して、評価してもらっていたのですが、そりゃ勝てるわけがないな、と思いました。
メーカー毎にテスト方法を決めて評価する。それ自体は一見フェアなようなのですが、評価の仕方で性能と言うものがまるで違って見えてきます。 我々のようなアルゴリズムが分かっていると綺麗な軌跡が出るような歩き方をしてしまうのです。 そうではなく、全くそういう事を考えない人に渡して測定してみると言うこともしっかりとやって行かないと駄目だと思っています。
松本

蔵田
先日御社にもご参加いただいた標準化の会合でも、先程話が出てきたテスターではないですが、毎回類型化された歩き方を何パターンかしっかりと出来る人材を養成し、 フェアなテスターとして、評価を行ってはというような話しも出ていました。何れにしても、この評価というものは色々な「人軸」、センサーやシステム等の「ハードウェア軸」、 そして「環境」が、複雑に絡み合ってきますので、中々難しい問題があります。標準化の活動については企業からの参加が非常に多い事が印象的です。 つまりそれはニーズが本当にあると言う事だと思っています。それに対し少しでもお役に立てるようにしたいと。 あまりアカデミックな方向に走らずに先ずは簡単なものからスパッと決めて行きたいと思っています。

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 PDRがスマートフォンにも標準的に搭載される時代はもう間近───
最近では本気でスマートフォンにPDR搭載を検討している方が出てきている。 屋内測位として今まではWi-Fiやビーコン等インフラ先行でなければいけないシステムが先行していたのですが、 皆さんそれぞれの方法を試した結果としてインフラ先行の限界を感じて来られているのではないでしょうか。
加藤

蔵田
ちょうどDoCoMoさんとゼンリンデータコムさんがこの4月からPDRを応用した屋内ナビのサービスを開始されましたが、これは本当に思い切られたな、と言うように感じています。 320箇所ほどの場所で一度にサービスを立ち上げるという、これはもうゲリラ的ではなくマスなのですが、やはりインフラに頼らない手法であったために一気にサービス開始できたと言う事が重要だったと思います。 もちろん精度としてはハイブリッドにしていった方が良いと思いますので今後はそのようになっていくと思います。 ハイブリッド化されてPDRが認知されてきたところで、今度はユーザーの皆さんが「これは電池の持ちが悪いな」というようになる。そこで必ず来ますよ、frizzの出番が。
はい、そう信じています。
加藤

蔵田
最近はスマートウォッチにも期待していています。 測定の為に工場に行ったり、物流倉庫に行ったりという事も行っている訳ですが、最近ではBring Your Own Deviceの流れも有ってスマートフォンを使いたいという方も増えてきています。 ところが最近スマートフォンが大型化してきていて、ずっと持っていただくというのが難しい局面が業務系では多々起こっています。 すると時計のような小さい物をという事になるのですが、今度は電力消費の問題が相当フォーカスされて来ています。そこで低消費且つ高性能なプロセッサが絶対に必要となってくるわけです。
それでは、将来バッテリー駆動の小型機器にもPDRが搭載され、そこにはより低消費電力なLSIが求められると言う事でしょうか。
加藤

蔵田
そうですね。無線も電力を消費しますが、PDRをローカルで処理しておけば通信自体は間歇的に行っても情報として使えるのですが、生のデータを送る場合は途中が抜けてしまうと意味が変わってきてしまう事になります。 そういった意味でも低消費且つ高演算能力と言うものが有れば効果抜群だと思います。
確かにウォッチでもナビゲーションくらいであれば矢印を表示してコンパスのような感じで使う事も可能ですよね。確かにウォッチにPDRを入れたいと言う要求は増えています。
加藤

松本
地図が読めない人の場合は、漠然とした自分の位置が分かっていて、後は目的の方向が分かりひたすらそちらの方向に向かって歩いていき、 最終的には目的地に到着すると言うほうが結局は使いやすかったりするのではないかと。 そういう場合等は時計だけで、目的地は右の方に有るはずだとかいう事を示すアプリケーションでも十分ではないかなと思ったりしています。
いいですね、時計に矢印が出てここは右だ!と言うようなのが有れば。
加藤

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 MegaChipsに対して要求される事───
  高演算能力と低消費電力を極めたハードウェア開発と、ソフトウェアライブラリの整備によるユーザフレンドリーな開発環境整備。
この座談会も段々と終わりが近くなって来ました。ここで蔵田先生、興梠先生にこれからメガチップスに期待することをお聞かせ頂けないでしょうか。
加藤

蔵田
はい、それでは私がざっくりとした事を言って、興梠がフォローします(一同笑) ともかくですね、我々このグローバーリゼーションの嵐の中で御社を含めたハードウェアのオールジャパンで行ける所まで行けたら良いなと思っています。
私が御社に対して期待しているのは、やはり低消費電力なデバイスという事です。 それがLSI単体の問題なのかハードウェア全体の問題なのか私も良く理解は出来ていないのですが、はっきり分かっていることは、大きい計測器具は身につけておけないと、いう事です。 今松本さんが胸ポケットから提げられている社員証だとかそのような形態にしないといけません。
興梠

蔵田
そうそう、是非そういう物が欲しいですね。
もう、これは皆が付けているものですし、理想形ではないかと思います。 これにPDRの機能が入ったら良いな、というような話しはもう、至る所でされています。
興梠

興梠
これを実現するには二つの要素があります。 一つは当然デバイス側の省電力化に向けた努力。 先程無線で間歇的に飛ばすと言う話しも出ましたが、蓄積するよりは無線で飛ばした方がリアルタイムで見る事も出来ますし省電力化も達成出来る。 そこでハードウェアの省電力化、正にfrizzがやっている事そのものなのですが、それを進めて頂きたいですね。そうそう、是非そういう物が欲しいですね。
私たちはセンサーの処理については勿論の事、システムトータルで何処に落とし込んで行くのかと言うことを私達よりも、もっと何か考える事が出来ればと思っています。
加藤

興梠
もう一つの要素はソフトウェアです。こちらについては我々も役に立てるところは勿論協力させて頂きます。 例えば省電力なアルゴリズムを考えたり、実装のお手伝いをさせて頂いたり。御社のハードウェアと我々のソフトウェアは車の両輪だと思っています。 ハードウェアだけ先行しても駄目だし、ソフトウェアも頑張らないといけない。我々の協業の価値は正にそこにあると思っています。
私達もハードウェアは勿論のこと、使い易いアルゴリズムの提供を目指しています。 我々は航空機で使うようなセンサーを使える訳でもなく、安いノイズだらけのセンサーを使う事が前提となります。 そうするとやはり補正と言うことをセンサーそのものだけでなく、他の手段も併せてやっていかないといけない。 最終的にはシステムとして補正されるので、最後の10cm以上の精度は捨てても、その10cmの誤差の中で常に留まっていられるようなソフトウェアを目指したいです。 もう一つハードウェアとしては、先程もご指摘頂いた通りひたすら低消費電力を目指して行きたいと思います。
松本

加藤
どうも有難うございました。 それでは、時間も来ましたので本日の座談会はこれにて終了させて頂きたいと思います。 皆様有難うございました。
有難うございました。 一同
handshake

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■プロフィール



産業技術総合研究所
蔵田 武志 先生

1996年
 筑波大学大学院工学
 研究科修士課程修了。
 現在、産業技術総合研究所
 人間情報研究部門サービス観測
 ・モデル化研究グループ長。
2003-2005年
 JSPS海外特別研究員
 (ワシントン大客員研究員)を兼務。
2009年
 筑波大学大学院教授
(連携大学院)を兼務。
 ISO IEC/JCT 1/SC 24委員
 ならびにSC 24/WG 9(拡張現実世界の概念
 と参照モデル)国内小委員会主査。
 TrakMark WG委員。
 PDRベンチマーク標準化委員会委員長。
 博士(工学)。




サイトセンシング株式会社
興梠 正克 先生

2001年
 早稲田大学理工学研究科
 情報科学専攻博士課程修了。
2001-2015年
 産業技術総合研究所にて研究員、
 主任研究員を歴任。
2011-2012年
 仏ジョセフフーリエ大学客員研究員を兼務。
2013-2015年
 産総研技術移転ベンチャー
 行動ラボ株式会社(現・サイトセンシング株式会社)を創業。
 同社取締役を兼務。
2015年 -
 産総研技術移転ベンチャー
 サイトセンシング株式会社
 取締役CTOに就任(専任)。
 現在、サイトセンシング株式会社
 取締役CTO。博士(情報科学)。

■ 聞き手
メガチップス
(マーケティング担当)
加藤 智成

メガチップス
(開発担当)
松本 真人